食べる楽しみ、料理する楽しみ。宅食も、ミールキットも食材宅配も、そのひとつ。
「おいしい」を仕事にする人々にインタビューする特別企画です。
今回のゲストはホンジャマカ・石塚英彦さん。食レポロケになくてはならない存在であり、石塚さんのためにグルメコーナーを企画されることが当たり前となっているほど。
そんなビッグネームに「食の窓口」編集部が突撃取材!
グルメロケをはじめた経緯、全国を食べ歩いて出会った忘れられないメニュー。「まいうー」誕生秘話! そして…ご自宅では何を食べている???
食リポの達人”石ちゃん”こと石塚英彦さん登場!
ーー グルメロケの仕事がはじまった経緯は?
きっかけは34歳のとき。相方(恵俊彰さん)がMCのほうで出演が増えていって、自分には何ができるのかなあ、と思っていた時期です。いわゆる「ホンジャマカのバラ売り」ですね(笑)。
はじめてのグルメロケはよく覚えています。1996年。豪邸を見学してリポートするロケ番組に出演したんです。お金持ちや社長さんの家に泊まって、家の中を拝見したり、ご飯も一緒にいただくという内容でした。そこで…「石塚は食べているときが一番イキイキしている」って製作の人が気づいたらしい(笑)。
ーー はじめてのグルメロケではどんな食事を?
夕飯は贅沢なコース料理。でも忘れられないのは「朝食」です。こんなに家がすごいならどれだけ豪華な朝食なのかとワクワクしていたら…何が出てきたと思いますか?
ビスケット2枚、ヨーグルト、フルーツ。
だけ。
信じられないほどシンプルなんです。
ーー 健康的ですね…体を起こすためのメニューということでしょうか。
そういうことでしょうね。
ほかの豪邸ではこんなのもあったよ。敷地内にすごいデカい庭があって、朝、そこを散歩する。烏骨鶏を飼ってるんだね。その産みたての卵を拾って朝食にするという。
ーー なんとも優雅な…
すごい贅沢ですけど、食ってるのは「卵」だよね?
恐ろしいような豪邸に住んでるのに…朝食がこれ? 衝撃でした(笑)。
ーー そのリアクションが良かったんでしょうか。
そうなのかな(笑)。自分では意識していなかったんだけど。それからだんだん番組が「ごはん」メインの内容になっていったんですよ。
流れで別の番組からもグルメロケで声がかかるようになりました。旅ロケに行っても、必ず食リポがセットになって。
「まいう~」を発明した人は〇〇さん
ーー そのなかで「まいう~」という名台詞を作った理由は。
「まいう~」は僕が作った言葉じゃないんですよ。
ーー えっ?
最初に「まいう~」という言葉が出たのは、1999年。テレビ朝日の『あ・た、り』という深夜番組だったんです。そのなかに俺・パパイヤ鈴木・カワイ麻弓ちゃんでコントみたいな設定で食リポをするコーナーがあった。
そこでカワイちゃんが高飛車な女優みたいな、業界人っぽいキャラクターでしゃべってたんです。現場に遅刻してきて「なかなかシータクがこなくてさぁ~」なんていうわけ。
「ラーメンたべたら、まいう~!」
って。
それが超面白かった(笑)。収録が終わった後もみんなで「まいう~」っていうようになって、それが始まり。
ーー なるほど! たしかに業界の人は言葉をひっくり返しますね。
そうそう。「ザギンでシースー」と同じ。
だから…もっといえば「まいう~」を最初に言ったのはきっとミッキー・カーチスさんだよね(笑)。
番組でミッキーさんとご一緒したときに京都でハンバーグをごちそうになったんですよ。「まいう~」と言ったら「懐かしいねぇ、それ!」って言ってたもん(笑)。
ーー それから食リポの代名詞に。
『あ・た、り』が番組終了して、同じ製作チームで『debuya』という番組が始まったんです。その番組でも「まいう~」と言っていたら、いつのまにか普通に「おいしい」っていうと「まいう~じゃないの?」と不思議がられるようになっていたんです(笑)。
忘れられない「グルメな人々」
ーー もう食リポ歴は20年以上にもなります。いままで毎日のようにグルメロケを続けてこれた理由は何だと思いますか。
一番は、楽しい(笑)。食べることが好きだし、最初の食リポから楽しかったんです。
でも、おいしい物が食べられる、という以外の醍醐味がある。それは「人と会うこと」なんだよね。
ーー 人と会う楽しみですか。
食リポの仕事を続けていると、食べるだけでなく、その料理の背景も聞くことになるわけです。料理人の方と話したり、食材の産地に行くこともある。
漁船に乗って漁に同行させてもらったり、畑で農家の方々と話したり。そうするうちに食べることに対するありがたみが生まれてくるんだよね。
漁師の皆さんは、海が荒れたらもしかすると帰ってこれないかもしれない。そんな危険のなかで魚をとってくれる。農家さんは天候によっては作物がほとんど収穫できないとか、木からほとんど実が落ちてしまうとか、どうしようもない自然の中で一日も気を抜かないで作っている。
ーー 「食の窓口」でも産地から食材を直送するサービスを紹介しています。生産者の方の工夫とご苦労には感動しますよね。
命がけですよ。料理人だって「仕方なくやっている」という人には会ったことがない。その思いを語ってくれるんだよね。
食が生まれて俺たちの口に入るために、どれだけの人が携わっているか。それを知るとありがたすぎるんですよ。
だから、グルメの仕事で僕の楽しみは「人」が60%くらい。「料理」が40%なんです。
ーー 特に印象に残っているロケはありますか。
たくさんあるけど、さっき言った「漁船」に乗せてもらった経験は忘れられないなあ。
富山の氷見漁港の寒ブリ漁。朝3時起きで海に出るというスケジュールでした。前日に港近くの民宿に泊まって…緊張と期待ですよ。どんなロケになるんだろう? 獲れたてのブリが食べられるのかな? と思ってたら、民宿の夕飯がブリだったんだけどね(笑)。超・美味かったね! ブリ大根。明日食べる予定なんだけど…(笑)
それで翌朝に漁船に乗せてもらうんだけど、もう…すっごい。まず、船が揺れまくって立ってられない。一気に船酔いですよ。でも漁師の男たちはぜんぜん平気でしっかり立ってる。
ーー すごい足腰です。
そう。二つの船を寄せてブリを網に追い込んで引き上げるという漁法なんだね。「そこに落っこちたら死んじゃうよ~」なんて言われて。ほとんど何も手伝えない。
漁が終わってお昼に港に戻ってくる。乗ってるだけでヘトヘト。でも、そこからすぐ、宴会が始まるの。
さっきまで泳いでいた、2歳児くらいの大きさがある立派なブリ。漁師さんがその場で包丁でさばいて、気前よく刺身で出してくれる。「石ちゃん、これ食べなよ!」。奥さんも出迎えで港に集まって。みんなでお酒を飲み始めるんだ。
ーー 美味しそう。
もちろん美味いよ。めちゃくちゃうまい!! だけど、もう「味」じゃないんですよね。エネルギーというか。圧倒される…そういうロケをたくさんさせてもらったよ。
農家さんだってそう。果実は刈り取る瞬間を逃さないように一日も気を抜けない。ビニールハウスだってただ放置してるわけじゃない、徹底的に温度管理しているんですよね。まさにプロの仕事。
食べないで生きられる人なんていない。だから誰もがその生産者の方々の仕事を待っているんだよね。
ーー 料理する方々もすごいですね。
そうですよ。何度同じお店に訪れても、シェフと毎回違う会話がある。お店の人だけじゃないですよ。「うなぎパイ」食ったことある? つくりたてが一番うまいだろうと思ったら、工場の人は実は何日か寝かしているんだって。そのほうが甘さが落ち着くんだよ。カステラもそう。冷ますことで味が入る。ただ出来上がったものを食べるだけではわからない。すこしでも美味しくするための隠れたプロの工夫がある。
ーー ありがたいです。
でしょ。それを知ると、余計に美味いですよ。
行ったことない店、知らない食材。日々、新しいカロリーとの出会いがあるわけです(笑)。気を抜けないよ。
自宅での「まいう~」は?
ーー 石塚さんば食レポのプロですが、自宅でのグルメは?
俺は「プライベートイート」と「ビジネスイート」は分けています。
午前中に食レポの仕事が入っていても、朝食は絶対食べる。そうじゃないと自分の体に申し訳ないという気がするんだよね(笑)。
ーー 必ず自分に合ったプライベートの食事で一日を始めるのですね。朝食のメニューは決まっていますか。
とりあえず「お米」。米はエネルギーが出るからね。
ーー 「米」派ですか。パンは食べない?
うん、朝食は米ですね。もちろんパンも好きだよ! うまいパンもたくさん食べさせてもらいました。でも、俺にとってのパンはメインの食事というより「食間」にいただきたいものなんですよね。次の食事まで数時間あるとき、その間にお腹をフラットに保ちたい時に食べるのがパン(笑)。
パンしかない国に生まれでもしない限り、俺は朝は米を食うと思いますよ。
ーー 極端なくらいのお米好きですね。
そうですね。最近、色んな地方でブランド米が増えているでしょ。全部まいう~ですよ。俺が子供のころはコシヒカリとササニシキしかなかった。2001年かな。『 突撃ほかほかごはん隊』という番組でタイにロケに行って、現地の子供たちに日本の米でおにぎりをふるまったことがあるんだ。本当に喜んでくれて、日本人としてほこらしかったのを覚えています。
それなのに最近はお米の需要が減ってるらしいね。なんてことだと思いますよ。
ーー ほかに朝食のこだわりは?
「肉のおかず」ですね。納豆、みそ汁、たくあん。そんな朝食も良いと思う。でも俺はそこに「肉」がないと納得できないんだよね。ステーキみたいな本格的な肉じゃなくていいの。ハムでもいい。ただ何かしら「肉」を感じないと食事というふうにならない。
だからグルメの流行とかにもあまり関心がないですね。米と肉があればいいから(笑)。
ーー 料理はしますか?
自分では料理しない。時間をかけて美味しいものをつくりたいという欲求もない。しいていえば…得意調理はコンビーフ丼。コンビーフをフライパンで炒めるとラードが溶け出して、それを米の上にのせてマヨネーズ。うまいよね。料理と呼んでいいかわからないけど(笑)。
ーー 全国の美味しい料理に出会ってこられて、自分でも作ってみたいとは思うことはなかったですか。
いやあ、逆ですよ。料理人の皆さんがあんなに苦労して作っているのを見ていたら、自分でやってみようとは思わないよね。
俺は食べたかったら食べに行く。食いたいときが食べるとき。腹減ってから8時間も具材を煮込めないでしょ(笑)。
「食リポ道」のレジェンドたち
ーー グルメロケには様々な達人がいますよね。印象に残っている方は。
まずは、阿藤快さん。もうお亡くなりになったけれど、忘れられない人ですね。
ーー 石塚さんから見た阿藤さんの凄さは。
「正直」なんだよね。阿藤さんは自分のことをレポーターでなく「旅人」と呼んでるんですよ。あるロケで一緒に青森にいったんだけど、こんにゃくに味噌をつけた田楽みたいな料理が出てきたの。俺は「まいう~!」と言ったんだけど……阿藤さんは一口食べて、こう言ったんだよね。
「おばちゃん、もうちょっと味噌つけて」。
この一言、実はなかなか言えないことなんだよ。
だって、そのままでも十分うまいし、お店の人も美味しいと思って出してくれているわけでしょ。
あっ、阿藤さんは「自分が」最もおいしいように食べるんだ、と気づいたんだよね。本気で旅を楽しんでいる。まったく嘘がない人なんです。
ーー テレビでも関係ないんですね。
そう。温泉に入るときもタオルを巻かないし(笑)。でもカメラの前で自然体でいることってとても難しいのかもしれないよね。阿藤さんしかできないと思います。
ーー ほかにもいらっしゃいますか。
ヨネスケ師匠。師匠は見知らぬ人の家にあがるのが世界一速いんですよ。ドアを開けて「どうもヨネスケです!」といい終わるときには靴を脱いでますから(笑)。
一度、番組でストップウォッチで計ってみたことがあるんですよ。インターホンをピンポーン、と押してから食卓に出ているお新香をつまみ食いするまで「30秒」だったんだから!
ーー は、はやすぎます…。
かっこいい…と。本当に感服しましたね。
でも俺にはできないな、と。「アポなし突撃」というのも好きじゃない。お店だって取材を受けるときは準備をしたいだろうし、ほかのお客さんもいる。礼儀は尽くすべきだよ。いきなり乗り込むなんて、ヨネスケ師匠しかできないことなんだから。
だから、阿藤さんにもヨネスケ師匠にもなろうと思ったことはない。マネできるとも思わないよ。
「食べるプロ」のマナー
ーー 仕事としてのグルメロケのこだわりは。
作っている人の苦労がダメになるようなコメントは絶対にしない。人が100人いれば「全員が好き」という味なんてない。「全員が嫌い」という味もないでしょ?
だから、決めつけちゃいけないと思う。うまい人にはうまいんだよ。
ーー テレビの影響力を考えてのことですか。
はい。「アブラガニ」ってカニがあって、それを誰かがテレビかYoutubeで「タラバガニのニセモノ」って言っちゃったらしいんだよね。市場の人が怒って「アブラガニはニセモノなんかじゃない、昔からある美味しい蟹なんだ。石ちゃん、なんとかしてよ!」ってロケ中に言われたことがあった。でも、どうにもできないよね…。だからテレビは否定的なことをいうべきじゃないよ。
もちろん、逆もそう。いまは赤身のお肉がブームだから「もう一度カルビを盛り上げてください!」って言われたりしてり。俺自身にそんな力はないですよ。大好きだけどね(笑)。
ーー 感謝しながら、ちゃんと食べる。すごくシンプルです。
そうだよ。だから、嫌なのはロケの1件目と2件目が近いときですね。たま~にあるよ。次のロケ先が隣の店とか(笑)。
せっかくいただくのに、せめて前に食べたものを消化してから食べないと作ってくれた人に失礼でしょ。だから、ロケが立て続けのときはあえて完食しないときもある。次のお店のために「ごめんなさい、これくらいで」って。でも怒られたことはありませんよ。それどころか、お店の方も俺の健康を気遣ってくれたりする。
いろんなグルメリポーターがいるよね。彦摩呂は自分で料理もするから詳しい説明ができる。隠し味もわかっちゃう。ギャル曽根みたいな大食いもいる。俺はせいぜい普通の人の1.5倍くらい。料理もしない。ちゃんと味わって、美味しくいただくだけ。感想も「まいう~」しかない。
でも、それでいいと思っているんですよ。
取材協力【石塚英彦さん】
日本のお笑いタレント。1962年神奈川県横浜市生まれ。お笑いコンビ「ホンジャマカ」のボケ担当。愛称は石ちゃん。グルメリポーターや俳優としても幅広く活躍しており、料理を頬張った後に「まいう~」という決めゼリフは流行語にもなった。
YouTube:石ちゃんねる|石塚英彦
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