食べる楽しみ、料理する楽しみ。宅食も、ミールキットも食材宅配も、そのひとつ。
さまざまな人の「おいしい」にスポットを当てる特別企画「食のつどい」。
今回のゲストは振付師・パパイヤ鈴木さん。AKB48「恋するフォーチュンクッキー」などの名作振り付けや、数多くのおじさんがかっこよく踊りまくる「おやじダンサーズ」の活動はもちろん、グルメ番組の食リポでも有名。っていうか、なんでダンサーさんがテレビでグルメロケの常連になったの?『食の窓口』編集部が直撃取材してきました。
食リポがはじまった経緯、一人のグルメと仕事のグルメ。そして…ご自宅では何を食べている???
「きみ、太ってるね?」ある日突然、テレビタレントになった
ーー Youtube拝見しています。お酒とゲストとの話が、数多くの食リポを経験してきた厚みを感じます。
パパイヤ鈴木 居酒屋でワイワイ騒ぐのも楽しいけれど、Youtubeでは話を聞きたいので静かなお店を探して収録しています。
ーー 20歳から振付師をされていますが、パパイヤさんをいまのように有名にしたのはいわゆる「デブキャラ」として食リポ番組に出たことだと思います。どうしてテレビタレントに?
パパイヤ もともとは、ぜんぜんテレビなんか出る予定なかったんですよ。
ーー え?
パパイヤ 僕が最初にテレビに出してもらったのは「あ。た、り」(1999~2000年・テレビ東京)というバラエティ番組だったんです。その番組内に「ファットボーイズジャパン」というコーナーがあって、石塚さんと何人かの太ったタレントさんがいろんな企画をするという内容だった。僕はそのコーナーに「振付のために」呼んでもらったんです。デブが元気よく踊るってことでね。
ーー ダンスのために参加したんですね。
パパイヤ そう。でもスタジオに入って仕事しようとしたら、プロデューサーさんが声をかけてきたんですよ。「きみ……太ってるね?」。確かにその当時太ってたんですよ、僕。
ーー まさか、それで出演?
パパイヤ そう(笑)。「あ、いいですよ」って。キャスティングもされてないし、本当にそのまま出ました。そこから石塚さんとデブキャラでいろんなことやらせてもらって。企画もやるようになって、いつの間にか準レギュラーになってました。そのあと「あ。た、り」が終わって、同じ制作チームで「debuya」って番組が深夜に始まるんです。2000年ごろかな。流れで「debuya」にも出て、2003年に「元祖!でぶや」って名前でゴールデン番組になった。その頃じゃないかな、僕のことをたくさんの人に知ってもらえたのは。
ーー そんなにいきなり出演が決まるものなんですか?
パパイヤ 僕も「テレビってこういう感じなんだ……」と思ったけど、珍しいパターンでしょうね(笑)。プロデューサーさんが強烈な人だったんです。感性で番組をつくるというか、みんなで好きなことをやりたいって現場だった。僕は運が良かったね。
ーー 石塚英彦さんとの掛け合いが面白かったのを覚えています。
パパイヤ 石塚さんも僕もボケキャラで、でも僕があまりにもボケしかできないから石塚さんが仕方なくツッコミしてたよね(笑)。でもその雰囲気が良かったんだと思う。みんな仲良かったし。「面白いデブ」っていうキャラクターを作った番組。最初から数えて8年続きました。
全国、美味しいものを食べて回って。漁師さんがやってる魚のお店とか、本当に美味しかったなあ。旅が日常になって。
グルメの仕事で知ったこと「好きじゃないものを食べてみるチャンス」
ーー パパイヤさんが食リポに向いていたからそんなに長く続いたのでしょうか。
パパイヤ 向いていた部分はあると思います。グルメの仕事をしていると舌が肥えてくるんだけど、僕がラッキーだったのは味覚。僕は「すごくおいしくないもの」だけわかるんですよ。だから美味しいものは全部美味しい。
ーー 味付けの好みは。
濃い目か、薄い目かってことですね。僕はもともと薄味はいけるほうなんですよ。
あるラーメン屋さんに行ったんですよ。塩一本で勝負!っていうお店で自慢のタンメンを頼んだ。食べ始めたら、ものすごい薄いんですよね。どう食べても、野菜の出汁の味しかしない。これは自然派すぎるな……と思った。体にはいいだろうけど。
そしたら、横にいた女性のお客さんがいたんですよ。
「これ……味合ってますか?」
って。勇気ありますよね(笑)。
そしたらお店の人が「あ!」って。作り直して持ってきたらまあ濃厚で……。でもそのときに、「いや、出汁だけでも食べられないことはないな」と思った。
ーー 食材の好き嫌いは?
パパイヤ 脂っこい牛肉があんまり得意じゃないですね。石塚さんとロケで超高級なすき焼き店に行かせてもらったんですよ。牛肉が一枚15000円、その上にマツタケが乗ってて、それが10000円。25000円を一口で食べて、石塚さんは「まいうーーー!!!」って叫んでたけど、僕は正直きつかったなあ。ベーコンのほうが好き(笑)。
ーー なんでも好きなのかと勝手に思ってました。
パパイヤ いやいや。だからこそ、仕事でもプライベートでも機会があったらなるべく苦手なものを食べるようにしているんです。昔の彼女のお母さんに会った時、地物の「ホヤ」をふるまってくれたんですよ。包丁でさばいているとき「うわー、エキセントリックだなあ」と思った(笑)。
でも、ここは食べてみようと。食べたら独特の臭みがあってめっちゃ苦手な味で…でもホヤが好きな人には、あの臭みがいいんですよね。仕事でもそう。何でも食べれそうなものは食べる。
経験が偏るともったいないと思うんです。だから記事を読んでる方にもおすすめしたいのは、お仕事で何かを食べに行くことがあったら、苦手なものや普段食べないものでも、あえてチャレンジしてみることですね。
ーー グルメの仕事で自分が変わったことは。
100%太る(笑)! その自分とどう付き合うか。特に僕はダンサーだから、体調管理の大切さを真剣に考えるようになりました。だって、一番グルメの仕事をやってた時期は、石塚さんと雪山に行って、雪にシロップかけて「巨大なかき氷だー」って食べまくる仕事の次の日が「おやじダンサーズ」のステージだったりするんですよ(笑)。
グローバルに活動
食卓を楽しむヒント 原点は「たまごかけごはん」
ーー ご自宅での食については。
僕は基本的に朝食は食べなくて、昼は家で食べるスタイルですね。夜は家だったり外だったり。
奥さんも娘も仕事しているので、家族の時間はバラバラ。僕と犬だけ家にいることもけっこうあるんです。
自宅では割と薄味かな。家ではお店と同じようなしっかり濃い味を食べたいわけじゃないですよね。今日のお昼は奥さんが鮭を焼いてくれたけど、「味、薄いかな?」って聞かれるくらいでも全然おいしい。実はいま、奥さんがすごい料理にハマっている時期なんですよ(笑)。
ーー それはいいですね。
うん、肉も魚も食べるし、ローカロリーにしたいわけじゃないんだけど、添加物は一切なし。小麦もだめ。麹を何種類も家で作ったり。砂糖もお醤油も黒酢もこだわってるから高いの。
特にカレーはすごいですよ。カレールーを使わず、スパイスから作るようになっちゃって。家じゅうがスパイスやハーブの匂いで、嗅ぎながら一杯いけちゃうという。
ーー すごい。オーガニックですか。
「無添加の『味の素』つくってよ」って頼んだら、やる気になってるみたいです。もともと徹底的な人だからハマるとすごい追求するんですよね。もちろん人には強制しないけど……でも、僕がカップラーメン食べてると寂しそうな顔して見てる(笑)。
ーー ああ、なるほど(笑)。
たまに食べるならいいと思うけどなあ。一人のときはコソコソ食べますよ。好きだから。カップラーメンは食事というより高級なスナック菓子だと思ってます(笑)。
ーー ご自分で料理されますか。
好きですよ。たいそうなものをつくるわけじゃないけれど、16歳で一人暮らしを始めたときから自炊してきましたから。
ちなみに得意料理はナポリタン。奥さんの料理とはやり方も考え方も違うけれど、ほぼ失敗しません。毎回好評ですよ(笑)。
ーー パパイヤさんの調理のポリシーは?
料理は再現性が第一! 僕は全部はかって、何度作っても同じ味にするのがこだわりなんです。データを溜めて検証していくタイプで……というか、ものさしをつくらないと何もできない。
だから最初に自分で作ったご飯からずっと続いてきている気がしますね。最初は「たまごかけごはん」でした。
ーー たまごかけごはん。
そう。家を出たとき、お母さんが持たせてくれたお米を1合、炊飯器に入れて、お釜のまま、タマゴをまぜて食べてました。ダンサーになるために一人で暮らし始めたばかり。お金がないし、毎日そのメニューです。
でも発見があるんですよね。例えばお醤油をかけるタイミングによって食感が違うとか。卵とご飯を最初にまぜると、熱で少しとろっと固まるんです。それが美味しい。でも醤油を卵に混ぜてからご飯にかけると、固まらない。あれ? 化学反応でも起きるのかな?って。そんなことを毎日卵かけご飯を食べながら発見して。その最高のトッピングは、桃屋のザーサイ! これが合うんですよ。
ーー 検証ですね。楽しそうです。
でもやっぱりたまごかけごはんだけじゃ飽きてくるでしょ。同じ具材で……そうだ、次はチャーハンを作ってみよう! という感じで広がっていくんです。
でも、たまご・ご飯・醤油・ザーサイで作ったチャーハンは何かが足りない(笑)。じゃあソーセージかな? って買い足して、検証していく。
そのうちケチャップを買って、チキンライスができますよね。さらにナポリタンに発展していくと。ひとつひとつのステップを覚えてますよ。
ーー まさに原点ですね。
家でひとりでいるとき、いまでもたまごかけごはんを作るときがありますよ。たまごとごはんをまぜてから、とろっとさせて醤油をかけて。
でも、もうザーサイは使わない。奥さんが無添加の漬物を作ってくれているから、それがザーサイのかわりなんです。
パパイヤ鈴木さんプロフィール
1966年6月29日生まれ。16歳でダンサーとしてデビューし、 東京ディズニーランドを最後に振付師になる。1986年CBS ソニーで振付、タップダンスのインストラクターを務め、1998 年にパパイヤ鈴木とおやじダンサーズを結成。2023年結成25周年を迎えた。同年夏には少年隊 錦織一清氏と新ユニット Funky Diamond 18 を結成し、精力的に活動中。大河ドラマ、日曜劇場、ミュージカ ルに出演するなど俳優としても活動の幅を広げている。振付代 表作品は、AKB48「恋するフォーチュンクッキー」、ロッテ 「Fit’s」CM、スズキ「ソリオ」CM等。
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Youtube:https://www.youtube.com/channel/UCX8wtssOgxdR_WnDKVraWTA