都営新宿線住吉駅から徒歩10分
陽もすっかり落ちた18:30
氷雨降る中
都会の喧騒とは程遠い
薄暗い裏路地は
いつもの相棒
G氏より手渡された
地図に従った結果だった。
自分はどこに行くのかと
不安を抱きかかえながら
まるで10代の若者が
自分の未来に感じるそれに近い
心細さの先にその店はあった。
店の名は『日本料理 味久』
来てみれば
それなりに大きな通りに
立派に店を構える
味への自信に裏打ちされた
威厳ある佇まいだった。
G氏の地図は正確だが
たまに「何故」を喚起させた
小さな冒険を孕ませてくる。
店の奥へ歩を進め
目をやると
薄手で清潔な水色のセーターに
人懐っこい丸顔メガネ
スポーツマン的な短髪の
笑顔が印象的な人物
ソバ山本氏と
口髭が印象的な
物腰柔らかく
トーン低めの甘い声で話す
ギョウザ小野寺氏が
あさり酒蒸しをつまみに
ビールジョッキを煽っていた。
「時間に正確だな」
やすひさを見てそう発したのはソバ山本氏
実際は2分遅刻していたのだが
彼の優しさなのかもしれない。
今日はソバ氏オススメの店での会食だ。
そもそも
先日、カイセキ江尻氏の餃子パーティーの際
隣に座ったソバ氏から
「地元に美味い唐揚げがある」
と打ち明けられた
ソバ氏と初めて会食したのは
今はなき浅草橋の銘店『柳ばし』だった
そこの唐揚げの美味さに感動し
15皿食べ続け
店が仕込んだものを
全て食べ尽くしてしまった過去のある
やすひさとしては
当時初めて会食をする際に
ソバ氏にもそれを味わってもらいたく
その銘店を選んだ
その銘店の味を知るソバ氏が
「あの銘店の味を彷彿させる」
と言わしめる唐揚げなのだ
もはや
行かないと言う選択肢はない
地元枠から
初対面のエフピー萬川氏も合流し
宴席が始まる
流石のソバ氏は
唐揚げを一人一皿注文した
通常
「唐揚げの皿は謂わば公共の場である」
と唱えているやすひさとしては
この一人一皿制度は
国有地を払い下げてもらい
私有地として存分に活用できる
そんな夢の広がる限られた場所に
同じ場所
同じ皿にも関わらず
圧倒的なメタモルフォーゼする
そのタイミングに出会えた感覚を
禁じ得なかった。
誰に気兼ねをすることなく
自由を満喫できるのだ
少なくとも食べ終わるまでは。
目の前に現れたのは
清楚な佇まいで4つ重なった
黄金の唐揚げだった
衣感はかなりクリスピー的サク
肉汁はジュル以上ジュワ以下という
口の中だけで広がる絶妙さ
今流行りの濃い味ではなく
噛みしめるたびに染み出す
薄味だが決して弱くはない、
いくらでも食べられる塩味
「うまい!」
これは美味い!
ソバ氏の言うことの
間違いはなかった。
確かに『柳ばし』の味を彷彿とさせる
日本料理の手法に則った
上品な旨さだ。
思わず
発作的にもう一皿頼む。
そして鳥以外の唐揚げを見つけ
発作的に頼んでしまった。
白魚の唐揚げ
これまた素晴らしく美味い!
魚の旨
味が超絶凝縮され
味が超絶凝縮され
口の中はまるで海だ。
そして
カレイの唐揚げ
肉厚でホクホクと
油の香ばしさが
ボリュームある白身魚を
丁寧に引き立てる。
ここの店は間違いなく銘店である。
誰がなんと言おうと
この店は美味い。
駅からも遠い
通だけしか行けないであろう
特別な店として
心に刻まれた瞬間だった。
ありがとうございました。
とても美味しかったです。